いま、日本の食文化は、世界から大きな注目と評価を集めています。それは、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」に限るものではありません。日本で育まれてきたフランス料理、イタリア料理、中国料理をはじめ、多様な料理の領域において、素材を尊び、季節を感じ、技を磨き、衛生と安全に心を配り、一皿の価値を高めようとする姿勢が大切にされています。料理のジャンルを超えて、食に真摯に向き合う精神こそ、今日の日本の食の豊かさを支える礎の一つといえるでしょう。
一方、食を取り巻く環境は大きく変化しています。食の価値は、おいしさや技術にとどまらず、健康、栄養、食文化、持続可能性、さらには地域社会のあり方にまで広がっています。また、AIやデジタル技術、FoodTechなどの進展は、調理の現場のみならず、人材育成にも新たな可能性をもたらしています。
こうした時代にあって、長い年月をかけて培われた「わざ」に宿る経験や感性、文化の知恵を大切にしながら、その本質を科学的に捉え、新たな知見と結び付けていくことが求められます。伝統と革新、理論と実践を結び、その往還の中から新たな価値を創造すること。それが、これからの調理技術教育に課せられた使命ではないでしょうか。
本学会は、調理に関する技術と科学、調理師養成教育について研究と実践を重ね、その成果を広く共有する場です。研究者、教育者、調理技術者、学生をはじめ、多様な人々が知見と経験を持ち寄り、研究を教育へ、教育の課題を新たな研究へとつなぐ「知の循環」を育んでまいります。
調理技術は、受け継ぐだけのものではありません。時代とともに問い直し、磨き、新たな価値を加えながら、次代へと受け渡していくものです。日本の食が世界から評価される今、本学会が、学術と現場、伝統と革新を結ぶ知の拠点として、調理技術教育と食文化のさらなる発展に寄与していくことを願っております。
調理技術教育学会
学会長 田中誠二